昔の外科ドラマで、利き手でない方の手(多くの場合左手、以下簡便のため左手に統一して書く)のトレーニングのために、左手で食事を食べたりするシーンがあった。
左手で食べることによって、利き手である右手と同じように動くようになるのであれば、手術の時も有用なのではということだ。
この練習の効果、というか必要性については、有効というドクターもいるし、「そんなの関係ないよ」という人もいる。
医者2年目に会津中央病院に異動になってから、左手で食事をするという習慣を続けてきたので、完全にバイアスのかかったsingle case reportだが、その効果について気付いたことを書いておこう。
1. 手術中に左手で安定した操作ができるようになる、というのがこの練習の一つの目的だ。
これに関しては、左手で箸が普通に使えるようになれば、手術中、短時間であれば「集中することで」正確な操作ができるようになる。しかも割と早期に。
例えば、動脈瘤にクリップをかけたり外したりといった操作や、バイパス中に1、2針縫うときなど。
特にバイパスでは、角度的に左手の方が縫いやすい箇所が必ずある。(逆針で縫えば良いと言われればそれまでだが、この手の"引き出し"は多いに越したことはない。)
2. また比較的単純な作業であれば、左右同じように動かせるようになる。
両手に鑷子をもって静脈からクモ膜を剥がす場合など、若い医者の操作を見ていると左手は固定して、右手だけで剥離を行っているが、これが両手とも剥離操作になるので、やはり効率がよくなる。
3. どれくらい経った頃かは忘れたが、例えば身体の左側でテーブルの上からものが落ちそうになったときに、左手が無意識に出るようになり、これには少し驚いた。
それが手術にどう役立つか、ということだが、
「無意識に」というところが重要で、脳が自然に身体の動きをコーディネートした結果、そうなったと考えられる。
難しい手術になるほど、手術中に考えなければならない要素が増えていくため、少しでも(術者の)脳の負担を減らすことが重要であり、左手が無意識に必要な操作を行えるようになるというのは、手術の役に立っていると考えられる。
ただ食べるだけなら、2,3週間も続けていると、ぽろぽろこぼさずに食べられるようになるので、それほど大変なことではない。
(ただし、若い外科医は忙しく、最初は速くは食べられないところが難点だ。しかし早食いは病気の元とも言うので、そういう意味でも良いのではないだろうか。)
また、左手で食べるようにいうと、右手を全く使わなくなる人がいる。
そうではなく、右手はちゃんとお茶碗を持って、コーディネートして食べるように。
みっともないし。
ま、あくまでバイアスのかかったN=1の話ですが。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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