もう一度、「未破裂脳動脈瘤の出血率は1%」という話に戻ります。
我々の結果では、出血率は年間0.57%という結果でした。
この年間出血率という値は、どういう計算から出てくるのでしょう?
これも過去論文と同じですが、人年法という計算方法を用いています。
つまり、患者さん一人を1年間経過観察したら、1人・年。
20人を半年間追跡できた場合は、20(人)x0.5(年) =10人・年という計算です。
我々の調査では722人の患者さんについて3320.8人・年の観察ができ、19人がくも膜下出血を起こしていたため、19/3320.8(人・年) x 100(%)=0.57%/年だったということです。
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ここでまた前回と同じ問題が出てきます。
「放っておいたら危ない動脈瘤」は比較的早い時期に治療されるのです。
UCAS Japanでも、1/3の患者さんが登録されて3ヶ月以内に治療されています。
この治療された動脈瘤に関しても、治療される日まで観察されたということで、人年法の観察期間に組み込まれます。
一方、2mmくらいの、ごく小さい動脈瘤や、前床突起のすぐ近くの4,5mmの動脈瘤などは、やはりほとんど出血しないと考えられているので、通常は経過観察されます。
3年間の調査であれば、この動脈瘤に関しては3年観察されることになるでしょう。
つまり、危ない動脈瘤は短期間で観察対象から外れ、安全な動脈瘤が観察対象に残ります。
われわれが調査を開始したときは、「動脈瘤がいったんできたら、一生持っているのだから、できるだけ長期間の観察が必要だ」と考えていました。
しかし、実際に経過を追いかけてみると、治療されずに残っているのは、ほとんどが出血リスクの小さそうなものばかり。
結果として、くも膜下出血の件数を、得られた人・年で割り算すると、0.57という小さい出血率になります。
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UCAS Japanの0.95%も同じ計算。
111件のくも膜下出血/11,660人年x100(%)=0.95 /年
つまり、多くの治療されない小型動脈瘤(と少数の出血リスクの高い巨大動脈瘤)の観察期間が、この0.95%という数字の元になっています。
とくに"低リスクの小型瘤の観察期間が長くなり、割り算の分母をかさ上げしている"可能性があります。
もちろん治療された動脈瘤が、放っておいたら出血したかどうかは分かりませんし、今後も「全ての未破裂脳動脈瘤を全員治療せずに経過を見る」という研究は倫理的に不可能です。
この0.95という値に、各部位のハザード比を割り当てたものが、件の表になるわけですが、どうしてMCAの5-25mmの出血率がこんなに低いのか、という疑問の答え(の一部)になってくるのではないでしょうか?
*ちなみに治療をお勧めする動脈瘤についてはこちら
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