脳神経外科 木村 俊運のページ
脳外科手術をより安全に
内頚動脈狭窄症の治療
症状が出ている場合には、血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)の内服が勧められます。内服によって全ての脳梗塞を防げるわけではありませんが、統計をとると、内服する人の方が脳梗塞の再発が少ないことが知られています。
たまっているプラークの量が少なければ、原因で述べた危険因子のコントロールを行います。
加齢に関しては仕方がないですが、喫煙されている方は禁煙をお勧めします。
血圧・コレステロールや中性脂肪・糖尿病はある程度は生活習慣の改善で良くなる部分もありますが、多くの場合は内服治療が必要となります。
たまっているプラークの量が多く、血液が流れる部分が狭くなっている場合や、繰り返し流れていきそうなプラークが残っている場合には手術治療を考慮します。
手術治療には2種類あり、ご本人の全身の状態などを元に判断します。
私自身は脳外科医であることとこれまでの経験から、原則、内膜剝離術をお勧めします。
その理由としては
1. 日本人は一般的に欧米人ほど太っていない。
(あまり首の脂肪が厚いと手術が難しくなります。)
2. 溜まっている垢(プラーク)をいったんきれいに掃除してリセットできる。
(ステント治療は垢を壁に押しつけてくるかたちになります。)
3. 薬の飲み忘れによる脳梗塞リスクが小さい。
(両方の治療とも原則、抗血小板薬を内服していただきますが、血管の中に金属が入っていると、薬の飲み忘れによって、ステント部分に血栓ができて、脳梗塞の原因となることがあるため。)
ステント治療が心臓の治療と似ていることもあり、内膜剝離術を心臓のバイパス術のように見立てる説明をする医師もいますが、開胸が必要な心臓バイパス手術と、くびに手を当てれば拍動を触れる頚動脈の手術は全く異なり、からだの浅い部分で行うもともと侵襲の少ない手術です。
ただし、いちど治療した後にふたたび狭くなっている場合(再狭窄)には、癒着により内膜剝離術のリスクが高くなるため、このような場合にはステント治療をお勧めします。
内膜剥離術
頚部を6~10cm程度切開して、頚動脈にたまったプラークを直接取り除く手術です。全身麻酔が必要ですが、プラークの量・固さなどに関わらず行うことができます。傷はできますが、多くの場合、切開を首の皺に沿って行うことで、長期的には目立たなくなってきます。
私自身は内膜剝離術を専門としていますが、現時点ではまだまだカテーテル治療より内膜剝離術の方が有効性が高いと考えています。
またこの手術は定型的な手術であり、ステップバイステップに手順を守って行えば安全な手術であると考えています。
首のしわに沿った切開
日本赤十字社医療センターでは顕微鏡下に行う精緻な内膜剝離術を行っています 。
(一般論として、脳動脈瘤に対するクリッピング術のような細かい操作が必要ではありませんが、細かい血管の処理が可能になり、術後出血のリスクも減らせると考えています。)
図1 頚動脈内から摘出されたプラーク
血管内手術
主に足の付け根から、カテーテルを入れ、プラークのある部分を風船で膨らませ、その上にステントという金網を拡げます。
局所麻酔でできる長所がありますが、プラークを押し拡げたときに一部が脳に流れていって脳梗塞を起こすことがあります。
この脳梗塞を防ぐために、頚動脈の脳側で網を拡げて、流れてくるものを回収する装置を用います。(全てのゴミを回収できない場合、運が悪いと症状を出すような脳梗塞が起こることがあります。また、治療後は抗血小板薬2種類を少なくとも3ヶ月程度は内服する必要があり、脳出血を含めた出血リスクを考える必要があります。)
日本赤十字社医療センターでは入江是明医師が担当します。