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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

"いざという時"のための大きな(?)開頭

更新日:2023年5月1日


開頭(骨を切り取る部分)の大きさについては、病変や必要な操作を検討して患者さん毎に決定している。

しかし、”普通の”未破裂脳動脈瘤や、顔面痙攣、三叉神経痛については、手順がほぼ決まり切っており、そのため、開頭の大きさもほとんど同じになる。

(顔面痙攣については、先日、欧州脳外科学会誌Acta Neurochirurgicaに投稿し、掲載いただいた


”普通の”脳動脈瘤というのは、バイパスが必要になる”可能性が低い”動脈瘤と、サイズが大きくはない動脈瘤ということであり、大きい動脈瘤は、保険のためにバイパスを置いたり、ということになるので、ほぼ同じことだ。


最終的に動脈瘤を閉鎖させる段階で必要なスペースは、限られており、また深部にある動脈瘤ほど、操作の自由度が開頭のサイズに関係しなくなるため、大きい開頭・大きい切開はかならずしも必要無い


未破裂脳動脈瘤
小切開、小開頭

顔面痙攣などの手術でも同様だが、そういう方針で手術を行っていると、「そんな狭い開頭では、”いざという時”、対応できないのではないか?」という批判がある。

つまり、「もしも、動脈瘤から出血したり、クリップをかけ損なって動脈瘤がちぎれるようなことになったらどうするんだ?」と。


たしかに、くも膜下出血の手術では、すでに一度、動脈瘤に穴があいた後の手術であるため、手術中いつ再出血してもおかしくはない。

実際に開頭の時点で、すでに脳がパンパンに腫れている、ということも経験されるため、高齢者で軽症、という場合を除けば、標準的な皮膚切開、開頭サイズで手術を行っている。


一方、未破裂脳動脈瘤の手術でも、動脈瘤が完全に露出される前に出血する、ということは非常に稀だが、あるとされている。

また、クリップを「かけ損なう」というよりは「外し損なって」動脈瘤から出血することは見たことがある。


ただし、これらは”まれ”な事態であり、”外し損ない”もそれなりに経験のある脳外科医であれば100件に1件も起こらないだろう。動脈瘤が露出される前の出血なんて、何千件もクリッピングを行っている御大が、数例経験したことがあると言っていた程度だ。


もちろん、いったん起これば1人の患者さんにとっては、命に関わるトラブルなのは間違いない。

しかし、その稀なトラブルのために他の多くの患者さんが大きく切られる必要はないだろう。


顔面痙攣の話ではあるが、他大学の尊敬する教授が「自分で手術するなら10円玉サイズで手術できるけど、大学病院なので広く開けて行っています」と仰っていたが、教育的には大きめに開頭して行う手術も仕方ないであろう。

(患者さんからしたら「?」という話ではあるが)


しかし、それ以外では、「ケースバイケースで必要サイズを検討する」、「手術後にどの部分は有用だったが、別の部分は不要だったという振り返り」を愚直に行っていくのが大事だ。


*************


それにしても、貯金や生命保険もそうだが「いざという時」のことを、過度に心配するきらいがあるのだと思う(ビル・パーキンス「Die with Zero」)。

その「いざという時」が、実際にどういう事態を意味しているのか、その可能性は具体的にどれくらい高いのか?を医者も患者さんも冷静に考えるべきだ。




(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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