未破裂脳動脈瘤とくも膜下出血を起こした動脈瘤(破裂動脈瘤)はどのような違いがあるのか?
という論文が時々あるが、これはフランスの血管内治療のグループからの論文。
J Neuroradiol. 2019 Sep 17.
フランスの他施設前向き研究で、脳動脈瘤に対してどのような血管内手術が行われていて、どれくらい再開通(再発)するかを調べる研究(ARETA study)の、サブ解析。
1289人1761動脈瘤を解析して、①「患者さん本人」毎、②「動脈瘤」毎、③「大きさで揃えた場合」という解析を行っている。
①と②を分けるのは、動脈瘤が複数ある人が大体20−30%くらいいるため。
注意が必要なのは、母集団が”血管内治療を行った患者さん”ということ。
つまり、未破裂脳動脈瘤/くも膜下出血で治療を行わなかった人は含まれていない。
またフランスでは血管内治療が優勢で、クリッピング術は少なく、中大脳動脈の頚部が広いものでも、ステント併用で何とかしているらしい。
(それが良いかどうかはここでは触れないが、血管内治療医も国内に100人くらいしかいないので、「訴訟になっても仲間内で意見が出ることになるので、あまり問題にならない」と、留学したDr.が言っていた。)
1.患者さんごとに解析すると、くも膜下出血を起こした患者さんでは、
血圧が高い
家族歴がない(家族にくも膜下出血を起こした人がいない)
動脈瘤が一つだけ
喫煙している
という傾向があった。
2.動脈瘤側の因子を見ると、くも膜下出血の患者さんでは
サイズが5mm以上
動脈瘤の頚部が狭い
形がいびつ
前大脳動脈/前交通動脈の動脈瘤(普通に考えると前交通動脈瘤)
という傾向があった。
3.同じ大きさの動脈瘤でペアにして比較すると、くも膜下出血の患者さんでは
家族歴が”ない”
頚部が狭い
喫煙している
前大脳動脈/前交通動脈の動脈瘤
いびつな形
「え、どうして家族歴なしの方が、くも膜下出血が多いの?未破裂脳動脈瘤の患者さんの方が多発じゃないの?」という点に関しては、論文の考察でも述べられているが、これは「治療を行った患者さん」を対象にしている研究だから。
つまり、「家族にくも膜下出血の方がいる」とか、「複数動脈瘤がある」という方の方が、”やっぱり自分の血管が弱いのかもしれない」という理由で、くも膜下出血を起こしていない瘤を治療しようということになりやすいのだろう。
なので、結論としては、
患者さんの因子としては「喫煙と血圧が高いこと」がくも膜下出血と関与していた、としている。
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著者らは、動脈瘤頚部が狭いこと(Aspect比が大きいこと)がくも膜下出血と、より関連している、と結論づけている。
これも結局、血管内治療を受けた患者さんの中ではこういう解析結果が得られた、ということなので、もしかしたら、くも膜下出血で頚部が広い患者は開頭手術が選択される割合が高くなり、血管内手術を行われた割合が小さかったのかもしれない。
ただ、aspect比が出血の危険因子という意見は他にもあるので、形状に関しては注意が必要だ。
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繰り返しになるが、この研究は「血管内手術を行った患者さんのなかで」調べているのだが、平均年齢が未破裂脳動脈瘤とくも膜下出血で差がなく、”出血を起こした高齢者はどうなったのだろう?”という疑問がある。
(再発を見る研究なので、年齢制限を設けているのかもしれないので、そのうち元論文を読んでみたい)
なんかもやもやするなー、と思うのは、この未破裂脳動脈瘤グループは、結局何らかの理由で「治療を受けた」患者さんたちなのだ。
根拠(サイズや家族歴etc) はなんであれ、その目的は「くも膜下出血を防ぐ」ということは間違いないだろう。
ということは、この未破裂脳動脈瘤の患者さんというのは、くも膜下出血を起こす危険性がそれなりにある、と考えられた人たちのはずだ。
そうすると、この研究は『「くも膜下出血を起こした患者」と、フランスの血管内治療医が「くも膜下出血を起こしそうに思われた患者」を比較している』ということではないだろうか?
そう考えると、この結果ってどういう解釈になるのだろう?
「フランスの血管内治療医が治療した未破裂脳動脈瘤は、破裂したグループよりサイズが小さくて、形がいびつでない傾向にあった」
と書くと、
まさに「本当にくも膜下出血の予防に役立っているの?」みたいな響きになるから不思議だ。
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ともあれ、未破裂脳動脈瘤が見つかったら、「禁煙・血圧コントロール!」については間違いないと思われる。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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