J Neurol Neurosurg Psychiatry .2020 Oct 23;jnnp-2020-324371
Location of intracranial aneurysms is the main factor associated with rupture in the ICAN population
Olivia Rousseau, Matilde Karakachoff, ..., ICAN investigators
論文のタイトルが、「動脈瘤の”場所”が、最もくも膜下出血に関わる因子」なので、「え、サイズより場所の方が重要なの?」と思ったが、そう単純な話ではなかった。
この研究の母体は、フランスで他施設、前向きに嚢状動脈瘤(いわゆる脳動脈瘤)を、破裂/未破裂問わず登録し、動脈瘤に関わる(まだ知られていない)遺伝子、家系などを探索しようという意欲的なもので、今回の論文はそのサブ解析のようなものだろう。
論文の【背景と目的】には、機械学習と最先端の統計解析手法を用いてくも膜下出血のリスクを洞察するとあるが、Pythonを用いた図や、forest plotにそれらしい臭いが感じられるものの、結局やっていることは多変量解析であり、たくさんデータ(患者数)が集まれば、何らかの結果は出ると思われる。
破裂/未破裂問わず、見つかった動脈瘤については大きさ、場所の他、その患者さんの性別、年齢、家族歴、喫煙歴、高血圧、頭痛の有無など、過去に出血の危険因子とされるもので、特殊な検査が必要でないものは、概ね含まれている。
要するにこれらの値を、未破裂脳動脈瘤とくも膜下出血の患者さんで多変量解析したら、「それぞれの値について、くも膜下出血の方に多く見られる、もしくは未破裂脳動脈瘤の方に見られるよ」ということである。
注意が必要なのは、UCAS Japan研究や、ISUIA研究のように「もともと見つかっていた未破裂脳動脈瘤の中で、くも膜下出血を起こした動脈瘤と、その他の動脈瘤」を比べているものではないことである。
つまり、この研究は、2016年から2019年の間に、「参加している病院で見つかった動脈瘤が、未破裂脳動脈瘤とくも膜下出血でどういう違いがあったか?」を調べていることになる。
なので、くも膜下出血のグループについては、例えば「頭痛の有無」について言えば、少なくとも出血した瞬間は激しい頭痛があっただろうし、もしかすると「警告頭痛」と呼ばれる、くも膜下出血の前に診られる頭痛があったかもしれない。
一方、未破裂脳動脈瘤の場合は、頭痛がMRIを取る原因になって見つかることもあるだろうし、他の理由で撮影したMRIで脳動脈瘤が見つかり、質問事項に沿って患者さんに尋ねたら、「頭痛もあります」ということかもしれない。
果たして、この頭痛を一緒に比べることに意味があるのだろうか?
くも膜下出血群の動脈瘤はもちろん、くも膜下出血を起こしたから見つかった動脈瘤だが、未破裂脳動脈瘤は頭痛・めまいや、研究目的から「家族にくも膜下出血の人がいて心配」という理由で見つかったものかもしれない。
未破裂脳動脈瘤として見つかった動脈瘤のいくつかは、放っておけばくも膜下出血を起こしたかもしれないが、そのような「危険な」動脈瘤と、一生何も起こさない動脈瘤がごちゃ混ぜになっているわけであり、これとくも膜下出血を起こした動脈瘤を比べることはできるのだろうか?
もしくは、比べることで何が言えるのか?
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タイトルになっている動脈瘤の場所についてはどうだろう?
”売り”にしているforest plotを見ると、「後方循環の動脈瘤は”内頚動脈瘤”の6.05倍リスクが高い」となっており、これがタイトルになっているようだ。
しかし、supplementary fileも含めてみると、この内頚動脈瘤は、(いままで何度か言及してきたが)内頚動脈−後交通動脈分岐部(IC-Pcom)以外の内頚動脈瘤のことであり、実際の臨床で、くも膜下出血の原因として遭遇する頻度は3%程度の場所だ。
とくに前床突起近傍の動脈瘤は、未破裂脳動脈瘤として見つかることはしばしばあり、血管内治療医が「最初に治療させてもらえる」動脈瘤であるが、大型の上向きの動脈瘤以外はまず出血しない。
それと比べれば、くも膜下出血の原因の1/3を占める、IC-Pcom(を含む後方循環)が6倍危険と言われても、「当たり前だよね?」ということになる。
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機械学習を用いているとか、図がキレイという以外に見るべき内容がないと思われるのだが、掲載されている雑誌(Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry)は一流紙なので、全く納得いかない、というのが正直ところです。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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