脳梗塞の治療の一つとして、抗血小板薬や抗凝固薬といった薬があります。
これらの薬は、脳梗塞で傷んだ脳を回復させる(再生させる)ものではなく、動脈硬化で狭くなっている部分で血液がよどんだり固まったりしないようにする、或いは心臓の不整脈(心房細動)があっても心臓で血栓ができないようにするためのものです
(心房細動自体をコントロールするのは、起こりはじめでなければかなり難しいです)。
脳梗塞を起こす、最も影響の大きい因子は、言っても仕方ないことではありますが「年齢」であり、歳をとるほど起こしやすくなるのも事実ですが、抗血小板薬や抗凝固薬を飲むことで、「飲まないでいる」よりは「統計的に有意に、脳梗塞を起こす人が減る」という種類のものです。
(タバコを吸っていると、再発する「確率」は上がります)
高齢になるほど心房細動という不整脈が起こりやすくなりますが、心房細動があって脳梗塞を起こすと、一般的には抗凝固薬(ワーファリンやエリキュースなど)を内服いただくことになります。
しかし、上記のような理由から、薬を飲んでいても脳梗塞を再発することがあるわけです。
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そこで、抗凝固薬を飲んでいたのに再発した患者さんがどういう脳梗塞だったのか?という論文がJournal of Neurology,Neurosurgery and Psychiatryに出ていました。
Polymeris AA, Meinel TR, Oehler H, Hölscher K, et al.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2022 Jun;93(6):588-598.
スイス・ドイツ・米国の11カ所の脳卒中センターに、前向きに登録された心房細動による脳梗塞の患者さんで、脳梗塞を再発した患者さん2946人の患者さんを調べたというもの。
年齢の中央値が81歳と、かなり高齢の患者さんを対象とした研究ですが、抗凝固薬をきちんと飲んでいても再発している患者さんが対象なので、我々の日常診療での感覚とそれほど違っていないと思います。
(=日本人にも研究結果が当てはまる可能性が高いと考えられます)
その結果、24%(およそ4人に1人)は動脈硬化による脳梗塞、31%は薬の効果(濃度)が不十分、44%は薬の濃度も足りていたのに起こった心原性脳梗塞、という結果でした。
脳梗塞後の抗凝固薬というのは、3番目の心原性脳梗塞を防ぐために飲むもので、もちろん飲んでいないよりはずっと起こりにくい訳ですが、起こる場合は心原性脳梗塞=一般的に重症、ということです。
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抗凝固薬を内服しているのに、心原性脳梗塞を起こした場合、医者側は「抗凝固薬の選択が悪かったのでは?」と考えるか、あるいは「何か違うことをしないとまた再発するのではないか?」と考えがちなので、別の抗凝固薬に変更する場合も多いです。
この研究では、ワーファリンからDOACと呼ばれる比較的新しい薬に変更したり、あるいはDOACから別のDOACに変えたり、あるいはそのまま続行したりしていますが、そうすることに意味があるかどうかは?なことがあります。
この研究では、特に統一された方針はなかったようですが、その結果としての3ヶ月後の再々発や出血などの合併症を評価しています。
結果的に、抗凝固薬を変更しても、再々発には差は無かったという結果であり、ただアスピリンなどの抗血小板薬を追加したグループでは、明らかに合併症が多かったようです。
これは、抗凝固薬も抗血小板薬も血液を固まりにくくする薬なので、両方合わせると出血の合併症が増えるのですが、3ヶ月でも明らかに増える、という結果。
しかもこの3ヶ月の間に5人に1人(約20%)が亡くなっていました。(必ずしも全員が出血で亡くなって訳ではありません。)
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脳梗塞、特に心原性脳梗塞の治療というのは、心房細動を起こすような心臓は慢性心不全状態のことを考えると、寿命との戦いという側面が否めません。
特に抗凝固薬を飲んでいても再発を起こすような場合には、心臓自体が大分、へばってきている(=長くはないですよ)ということを上手く伝える必要があると感じた論文でした。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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