2008年から、一生懸命やってきたことの一つである、「アテローム生血栓性脳梗塞で進行性に症状が悪化する患者さんに、急性期にバイパス手術」。
異動になるまでに、この条件で35人の患者さんを、手術させていただきましたが、その結果(成績)をまとめた内容が、ヨーロッパ脳神経外科学会誌に掲載されました。
Acta Neurochir (Wien). 2020 Mar 2. doi: 10.1007/s00701-020-04267-z.
(伝聞ですが)急逝された小渕恵三元首相のような、不整脈(心房細動)で心臓に血栓ができ、それが脳に流れていって起こる脳梗塞(塞栓性脳梗塞)の場合は、血栓を溶かす治療と、カテーテルで血栓を回収する(取り除く)治療が標準治療です。
一方、高血圧やコレステロールが高い状態が長期間続き、血管の壁に少しずつ垢(アテローム)が貯まった末に詰まって起こるタイプの脳梗塞の場合には、自然の経過で脳の血管にバイパスができているためか、塞栓性脳梗塞のような激烈な症状を起こすことは少なく、治療も抗血小板薬(いわゆる「血液さらさらの薬」)や点滴が中心になります。
しかし、入院して点滴の治療などを行っていても、進行性に症状が悪化する方が少ないですが、います。
(下は軽症(アテローム生血栓性)脳梗塞の標準治療(抗血小板薬2種類)後の再発を見た研究のグラフ)
一部は、branch atheromatous disease(BAD)と呼ばれる、穿通枝(1mm程度の細い血管) の根元が詰まることによるもので、これについても、どういう治療を行えば、悪化を防げるのかは分かっていません。
バイパス手術で対象になるのは、このBADの患者さんではなく、脳の主幹動脈と呼ばれる内頚動脈(3.5~4mm程度)や中大脳動脈(2~2.5mm)程度の血管が閉塞(もしくは詰まりかけている)しているために、心臓からいちばん遠い部分に脳梗塞を起こしている方です。
特に中大脳動脈から枝分れして、脳の深部で「麻痺を起こす場所」に血液を送っている血管(long insular arteryなど)の圧を上げることで、症状の進行を防ぐものと考えています。
なにしろ、薬の治療だけでは症状が悪化するのみ(と考えられる)方であり、特に高齢で半身不随になると、そのまま寝たきりの可能性も高いので、90代の方も3人含まれています。
もちろん、全身麻酔に耐えられないような方は手術の対象にならず、選択バイアスがありますが、実年齢より手術前の悪化具合によって予後(3ヶ月目のADL、自律できているかどうか)が、決まっていました。
(悪化してから手術しても仕方ない。当たり前と言えば当たり前の結果)
Case series(比較対照の患者さんがない報告)なので、35人が100人になろうが、エビデンスという点では弱いのですが、内科的な治療だけでは座して悪化するの見ているだけ、よりはいいのではないかと考えています。
(どこの病院でもできる、という治療ではないので、そこも弱いところ。ただし、塞栓性脳梗塞よりは時間の余裕がありそうなので、悪化しだした時点でアクセスできる脳外科に相談というのはありなのかもしれません)
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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