脳ドックなどで、症状を出していない未破裂脳動脈瘤が見つかった場合、サイズが大きくない、高齢、あるいは患者さん自身が希望しないといった理由で、手術(開頭手術/血管内手術含む)を行わない場合があります。
(何も症状が無くて、出血リスクが低い動脈瘤を持っている人を”患者”と呼ぶのが適切かどうかについても議論があるところですが、今回は”患者さん”としておきます)
その場合、原則としては3ヶ月とか半年とか、場合によっては数年後に再検査しましょう、というかたちで経過観察することになります。
しかし、経過を見ていても、大半の患者さんでは、何も変化が起こりません。
体感的には、100人MRIで経過を見ていて1年あたり一人か二人に変化が見られる程度です。
もちろん、次の検査までの間にくも膜下出血を起こして、他の病院で治療されていたとか、亡くなっている可能性はゼロではありませんが、経過を見ている動脈瘤は、過去の研究などから、リスクが低いとされるものがほとんどなので、可能性としては低いでしょう。
以前に脳神経外科学会総会で、京都日赤のDr.が
「そういう小さい動脈瘤を保険診療で経過を見る意味があるのか?」
と疑問を呈していましたが、くも膜下出血の予防に繋がらないのなら意味がないという意見はあります。
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しかしながら、少数の方では、動脈瘤が大きくなったり、ブレブという膨らみができたりします。
そして、動脈瘤の増大・形の変化はくも膜下出血のリスクが高い状態とされているため、原則としては治療をお薦めすることになります。
多くの患者さんは、専門家に治療を勧められれば、手術を受けると思いますが、中にはやっぱり治療に踏み切れないとか、あるいは、医者側も「まだ小さいですし、手術の必要は無いでしょう」と判断することもあります。
実際、半年に1回の検査の場合、増大したのは前回の検査のすぐ後かもしれないし、今回の検査の前日かもしれないですし。
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前置きが長くなりましたが、この「経過観察していて増大した動脈瘤を、治療せずに経過を見たらどれくらい出血するか?」というのは、そういう患者さんがかなり少ないこともあって、分かっていませんが、2021年8月にJAMA Neurologyという一流誌にそういう論文が出ました。
JAMA Neurol. 2021 Aug 30:e212915.
van der Kamp LT, Rinkel GJE, Verbaan D, et al.
ヨーロッパ、中国、日本など15施設から、未破裂脳動脈瘤の経過観察を2回以上なされた5166人から、増大が見られなかった4827人と、増大(確認)後1日以上経過を見られなかった27人が除かれ、128人は治療(手術)を受けた。
治療されなかった184人の経過を見たところ、観察期間中に25個の動脈瘤(7.6%)に出血が見られた。
出血に影響したのはサイズ、形状、動脈瘤の場所だった。
解析すると、増大(発見)後6ヶ月での累積出血が2.9%、1年で4.3%、2年で6%だった。
つまり、増大(発見)後すぐの半年の方が、その次の半年より危険性が高く、時間が経つに従って出血の危険性は低下する、ということだった。
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この調査でも、担当医が「この動脈瘤はくも膜下出血のリスクが高い」「無視できない」と考えた動脈瘤は多くの場合治療されていると考えられるため、全体の出血率としては低く見積もられている(=実際の出血率はもっと高い)可能性が高いです。
しかし、この論文で言われているように、動脈瘤の増大自体が確率的な「たまたま起こる」イベントなんだと思います。
このような動脈瘤を開頭手術で観察すると、新しく膨らんだ部分は壁が薄くて、内部の血流が透けて見えることがよくあります。
時間が経つに従って、出血リスクが下がるということは、この壁の薄くなった部分も、デフォルトとしては修復されて、線維組織が広がって白っぽいやや分厚い壁になっていくのでしょう。
(修復がうまく行かないと(?)、出血する)
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外来で未破裂脳動脈瘤の増大が見られた患者さんには
「ほとんどの未破裂脳動脈瘤の患者さんは、休火山みたいなものですが、あなたの場合は活火山みたいなので、原則としては治療を勧めます」
といったお話をしています。
活火山というのは言い過ぎかもしれませんが、やはり増大している時点で、ご本人の修復・安定化の働きが弱い可能性があるので、半年出血率2.9%をどう考えるかですが、はやり治療を勧めると思います。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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