ISCEMIA試験という研究があって、心臓の冠動脈に狭窄がある患者さん、しかも血流が足りない領域が10%以上ある方を対象に、抗血小板訳やコレステロールを下げる薬などの内科的治療で経過を見るグループと、”それに加えて”PCI、つまりステントを入れて冠動脈を拡げる治療を行うグループで、どちらの方が成績が良いかを比べたものである。
N Engl J Med. 2020 Mar 30. doi: 10.1056/NEJMoa1915922. [Epub ahead of print]
血流が足りない領域が10%以上というのが、体感的にはどの程度なのかは分からないのだが、比較的重症の狭心症の患者さんのようだ。
この研究の結果は、多くのカテーテル治療を行っている医師の思惑とは違い、療法のグループで心臓絡みの死亡・心筋梗塞には差が無かった。
詳しく見ると、カテーテル治療を行った患者さんでは、治療に伴う合併症での心筋梗塞があり、そのせいで両グループの生存曲線が交叉する=差が出なかったということらしい。
また心臓以外の原因による死亡も含めると、全く差はないとのこと。
つまり、重度の狭心症を起こしているということは、天寿が近いということなのだろう。
この研究に参加された慶応大学の先生は、「血管が狭い・詰まりかけているからといって、すぐに治療を行うのではなく、このような研究結果を患者さんと共有し、議論しながらす(カテーテルするのがよいかどうか)結果を出すのが良いだろう」と言っている。
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もちろん、その通りなのであるが、この交叉するグラフを見ると、脳外科医としては、2011年に発表されたCOSS試験を連想する。
内頚動脈が詰まっていて、血流が落ちている人に、内科的治療で経過を見るのと、脳のバイパス手術を行うグループだと、どちらが同じ側の脳卒中が少ないか、という研究だ。
これは、心臓のカテーテル治療と比べると、世の中の患者さんの数は少ないし、内科的治療vs脳外科手術なので、そもそも興味を持つ人が少ないのかもしれない。
この研究でも、バイパスグループで術後早期に脳梗塞を起こした患者さんが多かったため、途中で研究が中止され、「バイパスの効果は認められない」という結論になっている。
しかしこの研究でも、途中で生存曲線が交叉しており、時間が経つにつれてバイパス群より内科的治療群の方に脳梗塞が増えていく傾向が見られる。
なので、このCOSS研究に関しても、(手術リスクの低い病院であれば)「この結果を共有して、手術に関して議論しながら適応を相談すべき」というのが妥当な落としどころではないだろうか?
(この研究でどのような合併症が起こったか、については次回書くことにする)
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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