三叉神経痛に対して、顕微鏡を使わずに内視鏡だけで治療しました!という報告がしばしば見られるが、以前にも書いたように、自分としては現時点で採用する予定はなく、批判的である。
(補助的に内視鏡を用いることはある)
アメリカ脳神経外科学会(AANS)の雑誌であるJNSに、いわゆる微小血管減圧術(MVD)と内視鏡のみで行うMVD (E-MVD)の文献を比較した、という研究が載っていた。
J Neurosurg. 2018 Dec 1:1-9. doi: 10.3171/2018.6.JNS172690.
irmeen Zagzoog, MSc, MD,1 Ahmed Attar, MBBCh, FRCPC, ABPN,2 Radwan Takroni, MBBCh,1 Mazen B. Alotaibi, MBBCh,1 and Kesh Reddy, MD, FRCSC, DABNS1
1Division of Neurosurgery, Department of Surgery; and 2Division of Neurology, Department of Medicine, Hamilton General Hospital, Hamilton, Ontario, Canada
結果としては、E-MVDはMVDと比べても遜色ない効果が得られ、しかも合併症は少なかったという内容。
しかしいくつか突っ込みどころがあり
「再発に関して、両者にあまり差が無かった」という解析では、利用できる社会的資本などを揃えるため2000年以降の論文のみを採用しているが、合併症・高価に関してはそれ以前の論文を採用している。
つまり、開頭手術も洗練されてきていたはずで、昔の報告の方が合併症が多い可能性があるが、それは無視しているようだ。
しかも、新規の技術・手術法に関しては、大きな合併症が起こったら、”あえて報告しない”というバイアス(publication bias)が起こりやすいのではないだろうか?
ちなみに2010-13年の間に、日本(のDPC病院)で行われた三叉神経痛の手術は1619件で、その中でも4人の方(0.2%)が亡くなっている。
著者らが合併症についてまとめたグラフが出ているが(figure 4)、このグラフからは、合併症である顔面神経麻痺の差(赤)は、どうやって病変を見るか(顕微鏡か内視鏡か)よりも、施設の差と考える方が合理的だと思う。
顔面神経麻痺も聴力障害も不適切な牽引がかかって起こると考えられ、そこを改善するよう提案する方が重要だろう。
三叉神経痛は、普通に手術しても10円玉くらいの開頭でできる手術だが、内視鏡を使っても、内視鏡本体+両手の道具が入るスペースのため、結局、同じくらいの開頭が必要になる。
確かに小脳の牽引は多少少なく出来る可能性はあるだろうが、それが本当にless invasiveになるのだろうか?
(小脳の代わりに聴神経が牽引されて聴力低下を起こしているようなら、百害あって一利なしであろう。)
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
*三叉神経痛についてはこちら
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