近藤誠氏と養老孟司氏の対談が(医師界隈では)話題になっているプレジデント誌の特集。
不要な手術が特集されると、未破裂脳動脈瘤の治療もだいたい話題に上がるのだが、今回も富家孝先生が言及されていた。
「しかし(未破裂)脳動脈瘤が出血する確率は、コブの大きさや場所にもよりますが、年間1%未満です。また、万が一くも膜下出血を起こした場合の死亡率は3〜4割と言われています。裏を返せば麻痺などの後遺症は残る者の、全体の6〜7割が生存するということ。しかもそのうちの半数以上、つまり全体の3分の1は無事に社会復帰を果たしています。」
氏は、未破裂脳動脈瘤に対して開頭クリッピング術を行った結果、植物状態になった方に言及し、「慌てて手術に踏み切るのではなく、むしろ、くも膜下出血を起こしたときを想定して準備をしておきましょう」
と述べています。
一応、概ね賛成なのですが、いくつか注意すべき点があります。
まず、「未破裂脳動脈瘤が出血する確率は、コブの大きさや場所にもよりますが、年間1%未満です」とありますが、実際は「見つかる多くの動脈瘤の出血率は1%未満です」というのが正しいのです。
何度か言及している論文(1)ですが、脳ドック受けた4070人のうち動脈瘤が見つかったのは176人(4.3%)ですが、脳卒中ガイドラインなどで「治療を検討する」とされている、5mm以上の動脈瘤はたったの14人(見つかった動脈瘤の8%)
5mm未満の動脈瘤については、2011年に発表されたSUAVe study(2)の結果からは0.54%/年(複数動脈瘤があると0.95%/年)と1%未満となっています。
UCAS Japan(2012年)の結果でも、未破裂脳動脈瘤の年間出血率は0.95%/年となっています(3)が、この研究は、「実臨床での”観察”研究」なので、くも膜下出血のリスクが無視できないと考えられる動脈瘤は(見つかって早期に)に治療されています。
またIkawaらのUCASのサブ解析 論文(4)を見ると、実は3mmの動脈瘤の約3割、4mmも4割程度が治療を受けており、結局(根治的)治療が出血率に大きな影響を与えていると考えられます。
その結果が0.95%/年という結果なので、実際に手術を勧めるような5mm,6mmといった動脈瘤の出血率はもう少し高い可能性があります。
(5mmの動脈瘤の出血率が年間5%ということは、まずない、と思いますが、1%よりは高い可能性があると思います。)
つまり、未破裂脳動脈瘤が見つかった方、とくに5mm以上の未破裂脳動脈瘤が見つかった方にとって、「たくさんの小さい動脈瘤と少数のそれなりのサイズの動脈瘤を、リスクが高い動脈瘤を治療するという条件で経過をみた結果としての」1%(未満)という値は、あまり意味が無いかもしれません。
「= 個別に検討する必要がある」という当たり障りのない結論しかないわけです。
1. Imaizumi Y, Mizutani T, Shimizu K, Sato Y, Taguchi J. Detection rates and sites of unruptured intracranial aneurysms according to sex and age: An analysis of mr angiography-based brain examinations of 4070 healthy japanese adults. J Neurosurg. 2018;130:573-578. doi: 510.3171/2017.3179.JNS171191.
2. Sonobe M, Yamazaki T, Yonekura M, Kikuchi H. Small unruptured intracranial aneurysm verification study: Suave study, japan. Stroke. 2010;41:1969-1977
3. Morita A, Kirino T, Hashi K, Aoki N, Fukuhara S, Hashimoto N, et al. The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a japanese cohort. N Engl J Med. 2012;366:2474-2482
4. Ikawa F, Morita A, Tominari S, Nakayama T, Shiokawa Y, Date I, et al. Rupture risk of small unruptured cerebral aneurysms. J Neurosurg. 2019;25:1-10
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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