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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

小型の未破裂脳動脈瘤を治療する意味

更新日:2023年8月19日

小さい未破裂脳動脈瘤を治療することには「あまり意味がない」と思っている。


そのまま放っておいても出血するリスクが小さく、「どの人が出血するか」は分からないからだ。

小さい動脈瘤からくも膜下出血を起こす患者さんは現実にいるのだが、それを未破裂脳動脈瘤の段階で、その人だけ見つけ出して治療するのは難しい。

というかできない



未破裂動脈瘤, 開頭クリッピング術, コイル塞栓術, 脳動脈瘤
見つかる動脈瘤の大半はtype4

また治療リスクが(ほぼゼロだとしても)ゼロとは言い切れず、切った部分の痛みなどは必ず起こるためでもある。

(血管内手術では切った痛みは無いかもしれないが,本質的には同じである。)


しかし、この記事を読んで下さっている方の中には、もう既に治療された方もいらっしゃるかもしれない。

もしかしたら、治療のせいで後遺症が残って苦しまれている方も。


そのような方に「自分が受けた治療は本当は不要だった」「意味のない治療のせいで私は苦しんでいるの?」と思わせるのは本意ではない。


担当した脳外科医も、おそらく

「もし出血して後遺症が残ったら…」

「動脈瘤が凸凹していてリスクが高いんじゃないか」

「人生、この先も長いんだから」

とか、いろいろ考えた末に治療を勧めたに違いない。

(”動脈瘤を見たらとりあえず治療を勧める”という医師もいるかもしれないが)


どうしても奥歯にものが挟まったような書き方になるのは、小さい動脈瘤がくも膜下出血を起こす危険性もゼロではないからだ。

(SUAVe研究 (2011)では、1年あたり0.54%(185人に1人)。UCAS Japanでも0.5%程度)


しかし、これは(年間)1件のくも膜下出血を防ぐために185人治療する必要があるということになる。


では、どういう場合には小型の動脈瘤の治療を考えるべきだろうか?


*************


飛行機事故もそうだが、稀だけど大変な結果を引き起こすイベントは、実際よりも怖く感じることが知られている。


なので、いくら確率が低くても「くも膜下出血を起こすんじゃないか」と心配で、外出を控えたり、ちょっと頭が痛くなるだけで「救急車呼ぶ方がいいんじゃないか?」と悩むようになる方もいる。


特に最初の説明で「頭の中に爆弾をかかえているようなものです」といった説明をされると、QOL(生活の背質)が下がるのは当たり前だろう。


セカンドオピニオンなどで、そのような方に

「動脈瘤は爆弾ではなく、出血しても必ず亡くなるわけでもないし、ほとんどの方は他の病気で亡くなるまで何も起こさず、そのままですよ」

と説明しても、恐怖を拭い去るのは難しい。

しかも申し訳ないことに「この瘤は出血しません!!」と言い切れないので、余計にそうなのだ。


なので、小さくても、動脈瘤があるせいで人生の質が下がっている、やりたいことができない、という場合には治療する方がいいと思う。


もう10年以上も前だが、NHKの番組で未破裂脳動脈瘤が見つかった高齢の方が、心配なのでどこにも出かけず、田舎で仙人のような生活をしている、という放送があった。

(放送では、心を乱さず穏やかに、みたいなニュアンスだったと思う)


動脈瘤の画像も出てきたので、(5mm未満ではなかったが)「僕に治療させてくれれば、その場所、大きさなら合併症の確率はほぼゼロですよ!  治療して残りの人生、楽しみましょうよ」と思った。

人生1回しかないのだから、それを楽しめないのは何とかしてあげたいと思う。



*************


また、過去にくも膜下出血を起こして、緊急手術やら術後の不自由を強いられる入院生活で、「実際に死ぬかもしれない」という思いを味わった人は

「この動脈瘤は小さいから大丈夫ですよ」と言われても、確率が低くても同じ思いをするのは絶対イヤだということはあるだろう。


実際の確率以上に、動脈瘤が見つかったご本人の生活の質が著しく下がってしまっているようなら、生活の不安を取り除くための治療、という適応はあるすし、今の日本ならアリだと思う。


* 血圧のコントロール、禁煙、睡眠時間の確保、定期的な歯科受診の方が、くも膜下出血以外の脳卒中や心臓の問題を予防するという点で、おそらく有用性が高いです。


*治療をお勧めする未破裂動脈瘤についてはこちら


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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