関西の脳動脈瘤(血管内手術)の雄、神戸市民病院から出た、コイル塞栓術の成績
JNR Am J Neuroradiol. 2020 May;41(5):828-835. doi: 10.3174/ajnr.A6558. Epub 2020 May 7.
Y Funakoshi ,... , N Sakai
(クリッピングの方が適切と考えられる患者さんはクリッピングで治療されていると思われるが、今回の報告にはその割合は記載されていない。そのため中大脳動脈瘤の治療件数はすごく少ない)
抄録にある成績だけを見ると、426個の未破裂脳動脈瘤のうち、再開通した動脈瘤は38個(8.9%)、くも膜下出血の患者さんでは169個の動脈瘤のうち37個(21.9%)だった。
再開通というのは定義が微妙なところがあるように思われるが、概ねカテーテル検査もしくはMRIで、「また動脈瘤が写るようになってくること」で、これはつまり「またくも膜下出血の危険性が出てきている」状態といえる。
実際にこの報告でも、くも膜下出血を起こした方は未破裂脳動脈瘤、くも膜下出血のグループにそれぞれ4人いたとのこと。
この数字だけ見ると、かなり高い確率で動脈瘤が再発(再開通)しているように見えるが、実際には、経過を見ている年数も考える必要がある。
患者さんの数と、経過を見ている期間を考慮すると、くも膜下出血を起こすリスクは未破裂脳動脈瘤の”治療後”で0.20%, くも膜下出血の患者さんでは0.97%/年となったようだ。
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そこでどういう動脈瘤が治療されているかを見てみると、やはり前床突起近傍の動脈瘤(paraclinoid)が多く、全体の44%を占めている。
この場所は、血管内治療医の方々がしばしば「骨の近くなのでクリッピングは難しい部分です」と説明している動脈瘤だが、クリッピングが(簡単とは言わないまでも)慣れていれば普通に安全に開頭手術でも治療できる動脈瘤である。
この部分の動脈瘤は、全国的にたくさんコイルを詰められていると思われるが、動脈瘤治療の闇の一つだと思う。
というのは、この、治療された未破裂脳動脈瘤のうち44%を占める前床突起付近の動脈瘤であるが、くも膜下出血の出血原因になっていることは稀である(図 左側の緑部分)。
くも膜下出血の原因動脈瘤の1%にもなっていない。
それを考えると、この44%を占める動脈瘤のほとんどは、放っておいても出血しないものの可能性が高い。
少なくとも、他の部分よりリスクが高いことはないだろう。
そうすると、(若干の議論の飛躍があるものの)コイルを詰めても詰めなくてもサイズが変わらない、あるいはくも膜下出血を起こさないと考えるのが理にかなっているように思われる。
それが44%もあると、全体の再開通率・出血率を下げることになる。つまり
出血率=出血した動脈瘤の個数/出血せずに経過観察された期間
再開通率=再開通した動脈瘤の個数/再開通せずに経過観察された期間
そもそも変化しない動脈瘤の割合が多いと、分母が大きくなるため、値は小さくなる。
(いや、もしかするとこの著者らの病院には、「出血しそうな」前床突起部分の動脈瘤だけが集まってくるのかもしれない。)
要するに、実際のくも膜下出血を起こしやすい(中大脳動脈や前交通動脈などの)部分と、そうでない部分は、別々に解析しないと、実際の治療適応を判断する参考にはしにくいと考えられる。
が、血管内治療医の方々は以前から、この十把一絡げの解析を行って、再開通率・出血率を計算しているのだから、少なくとも上層部は確信犯なのではなかろうか。
この188個の前床突起部分(と海綿静脈洞部)を除くと、226個の動脈瘤のうち27個(12%)に再開通が見られたことになる。
これは別に恥ずかしい成績というわけではない。
つまり、未破裂脳動脈瘤でも10人に1人以上、再開通(再発)するということなので、そのリスクはもっと知られるべきであろう。
ただ、虚心坦懐に治療適応を考えなければ、血管内手術の根治性=くも膜下出血を予防する能力というのはこんなものなのだ。
実際にカテーテル治療の選択肢があることで助かること多いし、そもそも出血するリスクが低い動脈瘤については、コイルが詰まっているだけで「安心」という患者さんもいるだろうから、意味が無いわけではない。
そして、彼らは常に便利な言い訳を持っている。
「これは以前のコイルの成績です。今の成績はもっと良くなっています」
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
*神戸市民中央病院は血管内治療の西の雄であり、著者らは自分たちの成績をこのような形で発表している点で、凡百のもっと成績が悪い、あるいはもっと必要性が低い治療を行っている病院より誠実であるといえます。
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