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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

睡眠とアルツハイマー型認知症

未破裂脳動脈瘤の経過観察などでMRIを撮影することがあるが、しばしば「アルツハイマーになっていませんか?」と聞かれることがある。

アルツハイマー型を含め、認知症はまず「症状があって」の病気であり、進行したアルツハイマー型認知症で脳の萎縮が見られることはあるが、原則MRI画像だけで診断がつくものではない。

それにMRIで、結構脳が萎縮していても、矍鑠(かくしゃく)とされている後期高齢者の方もたくさんいらっしゃるので、診断的な価値はほとんどないのではなかろうか。


とはいえ認知症は、自分も最もかかりたくない病気のひとつであり、発症につながりそうな危険因子は避けたいし、予防効果がありそうで副作用がなければ試したいという気持ちはよく分かる。

アルツハイマー型認知症では、脳組織にアミロイドβやタウ蛋白が以上に沈着しているのが特徴だ。

このアミロイドβやタウ蛋白が脳関髄液中にも見られるが、睡眠とこれらの蛋白の関連がいろいろ研究されていて、論文もたくさん出ている。


Neurology. 2017 Aug 1;89(5):445-453. doi: 10.1212/WNL.0000000000004171.


この論文は、睡眠の質が悪いと、(認知症がない人でも)脳脊髄液中のアミロイドβやタウ蛋白が高くなっているという論文。


睡眠の質が低いとアミロイドが増える


脳外科医という職業柄、当直はあるし、急患が来れば夜中の手術も避けられないので、これは非常に気になる問題だ。


著者らは、家族歴などからアルツハイマー型認知症のリスクが高い人を対象にして、睡眠に関する質問表に答えてもらい、この結果(=睡眠の質)と、午前中の脳脊髄液中の蛋白の濃度を調べた。

その結果、睡眠の質が悪いと、アルツハイマー型認知症と関係があるとされているアミロイドβ42とタウ蛋白の濃度が上昇していた。


これらは、PETでも指摘されていることで、マウスでも眠らせないようにすると、脳脊髄液中のAβやタウ蛋白が上昇し、脳への沈着が増えることが知られている。


具体的に髄液中のアミロイドβやタウ蛋白がどのようなはたらき(or 悪さ)をしているかは分かっていないと思うが、睡眠によってこれらの蛋白が除去されるのは、ほぼ確かなようだ。


…ホントに当直、嫌だ。


ただ、アルツハイマー型認知症の初期にはシナプスが壊れることも知られているが、今回の研究では、睡眠の質とこの壊れた出てくる蛋白(neurogranin)との間には関連がなかったとのこと。


あくまで質問表(アンケート)による「主観的な」睡眠の評価ではあるが、(睡眠研究などで用いる)PSGを行っても、それが十分な睡眠かどうかを知る術はない。


不眠はアルツハイマー型認知症に影響を与える可能性があるが、この対象となった人たちがアルツハイマー型認知症になるリスクが高い人たちの集団であることを考えると、この素因(リスクが高いこと)が睡眠の質を下げている可能性もあるとも言っている。


ともあれ、質の良い睡眠を摂ることは手術のパフォーマンスを含め重要なので、いろいろ”こだわる”べきではないだろうか。


ちなみに睡眠導入剤は、一般的に正常な睡眠とは異なるので、入院して環境が変わって寝られないなど、一時的に用いるのは仕方ないと思いますが、原則お勧めしていません。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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