くも膜下出血を起こされた方の中には、3mmとか4mmサイズの小型の動脈瘤(以下、小型動脈瘤)からの出血という方も少なからずいます。
なので、ともすると「3mmでも4mmでも、くも膜下出血を起こすのだから、見つかった動脈瘤は治療を考える方が良い」という意見もあります。
一方で、小型動脈瘤の多くは「動脈瘤ができてから数日から数ヶ月で出血する」という意見があります。
つまり、小型の動脈瘤からのくも膜下出血は(今の方法では)防げない、という考えです。
2004年の論文からですが、発生した脳動脈瘤がたどる経過を表した図です。
このType1ですが、くも膜下出血で見つかる小型動脈瘤はこのタイプが多いだろうと言われています。
実際に、くも膜下出血を起こされた方の中には「3ヶ月前に脳ドックを受けているのに、どうしてくも膜下出血になるんですか?」という方がいます。
そういう場合には、ドックを受けた病院なりクリニックに連絡して、画像を送っていただくのですが、送ってもらったMRIを見ても、確かにその動脈瘤がない、
もしくは本当に少しだけ膨らんでいて、「異常なし」とされても仕方ないだろうな、ということもあります。
後者の場合は、実際には動脈瘤だった訳ですが、じゃあ、そういう微妙な形の膨らみを治療するか?というと、普通の判断では治療しましょうとはなりません。
かなり入念な病院でも
「では造影CTの予定を立てて精査してみましょう」とか
「3ヶ月後にMRIをもう一度撮ってみましょう」
という計画になるでしょう。
(造影CTも、被曝の問題の他にアレルギー反応を起こすリスクがあります)
結論としては、このようなタイプのくも膜下出血を脳ドックで防ぐのは無理である可能性が高いです。
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では脳ドックで小型動脈瘤が見つかった場合にはどうでしょう。
国立病院機構が行った他施設前向き観察研究については以前も言及しましたが、5mm未満の未破裂脳動脈瘤を、手術治療(血管内手術を含む)を行わずに経過を見た研究(SUAVe 研究、2010年)が、最も参考になると考えています。
この調査では、374人の方が登録されました。
(余談ですが、この小さい未破裂脳動脈瘤を持っている無症状の方を「患者さん」と呼ぶのも、抵抗があります。これは病気と呼ぶべきなのでしょうか?)
この人たちを平均41ヶ月経過観察したところ、7人がくも膜下出血を起こした、ということです。
年間の出血率を計算すると、0.54%(185人に1人)でした。
出血を起こされた方が7人なので、これをさらに分けて分析するのが良いかどうかは検討すべきですが、2個以上の動脈瘤を持っている方だと、0.95%, 1個だけだと0.34%でした。
この間に、動脈瘤が2mm以上大きくなって(出血リスクが高いと判断され)治療を受けた方が10人います。
なので、小型動脈瘤の場合には1年という期間でみれば、「185人のうちの1人出血するけど、99.5%は経過観察で、まず大丈夫」ということもできます。
あるいは、1人のくも膜下出血を防ぐために185人を治療しなければならない、ということになります。
(治療できないというわけではありませんが、治療自体にもリスクがあります(注)。
184人は切られ損、詰められ損(X線浴び損)であり、誰にメリットがあったのか(=治療しなければ出血していた)は分かりません。
なので、小型動脈瘤が見つかった場合には、禁煙、血圧のコントロールを行って経過を見るのがよいと思います。
(その他に、科学的な証拠は弱いけれど、重要だと思っていることとしては、
虫歯・歯槽膿漏の予防(治療)
睡眠
バランスの取れた食事
に気を付けましょう。)
ちなみに、これは脳ドックを受ける/受けないに関わらず、脳卒中一般に言えることですね。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
注;一般的に開頭手術の後遺症と呼ばれる、麻痺や認知の問題、嗅覚/視覚などの問題、再手術などのリスクが、小型動脈瘤だと1%弱と説明しています。
これらはまず起こりませんが、頭皮の違和感などは必ず起こります。
また「3mmの動脈瘤にも安全にコイルを詰めることができた」という報告がときどき見られます。
しかし、上記のように基本的にほとんど出血しない動脈瘤を安全に治療しなければならないのは当たり前。「出血の予防になったのかどうか」が重要なのですが、本当に3mmの動脈瘤に上手く1本だけコイルをつめることが、未破裂脳動脈瘤の出血予防に繋がるのか?という疑問もあり、実際に何年か経過してからコイル後の"未破裂脳動脈瘤"から出血することもあります。
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