未破裂脳動脈瘤をお持ちの患者さんが、しばしばUCAS Japanの表を持って受診される。
部位を日本語に訳して、年間の出血率のみにすると下のようになる。
UCAS Japan研究は師匠が大きく関わっている研究であり、本論文の他にも、そのデータを用いていろいろな研究がなされていたりと、影響力の大きいデータなのだ。
しかし、何度かこのブログでも言及しているように、というか、そもそもの研究開始の段階で多くの脳外科医が指摘していた”避けられないバイアス”があり、それを考慮する必要がある。
つまり「(過去の論文や自身の経験から)出血しそうな危ない動脈瘤は、観察研究には登録されるけど、早期に治療された」ということ。
なので、「UCAS Japanではそうなっていますが、あなたのような動脈瘤だと、危ないので3ヶ月以内に治療されてますよ」ということが、しばしばある。
実際にUCAS Japanに出ている患者さんの経過を見ると、登録されてから3ヶ月以内に1/3強の方が治療されている。
当然、治療された動脈瘤はくも膜下出血を起こさないので、その患者さんについては経過観察終了となる。
*************
では、あの表の意味はどういうこと?
UCAS Japan研究の動脈瘤登録は2001年から2004年に行われているので、2000年代初頭の手術適応を反映した動脈瘤の経過を表していると思っている。
当時は脳動脈瘤の治療は主に開頭クリッピング術が行われ、血管内手術はあまり行われていなかった。
ISUIA研究で「未破裂脳動脈瘤なんて1cm以上の大きいものを除いて意味がない」という欧米の研究結果を受けて、治療が手控えられた可能性も考えられた。
(UCAS Japanデータを用いた別の論文からは3mm、4mmの動脈瘤も結構治療されていて、治療を行うかどうかの判断については、あまり影響を受けていなかったらしい)
結局、2000年頃に「安全に治療できそうな動脈瘤が治療され、
1.大きくて、くも膜下出血のリスクが高いけど、治療が難しい動脈瘤と、
2.小さい動脈瘤や骨の近くの内頸動脈瘤で経験的にあまり出血しない動脈瘤の自然歴」
があの表の意味するところと考えられる。
繰り返しになるが、治療が安全にできて、出血しそうな未破裂脳動脈瘤は、昔も今も、ほとんど治療されているのだ。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
Comentarios