三叉神経痛はヒトが経験する痛みの中でももっともひどい痛みと言われるが、動脈が三叉神経を圧迫して起こることが多い。(その他、脳腫瘍が圧迫して起こることもある。)
三叉神経の周りには静脈もあるが、「静脈が三叉神経痛の原因になるか?」が神経減圧術学会で話題になる。
特に学会の重鎮である関西の御大が、「三叉神経痛は、動脈が偏位してきて圧迫するようになって起こるもの。静脈は生まれつきそこにあるものなんだから、三叉神経痛の原因にはならない」と言い切っている。
そこにまた、関西で手術もガンマナイフもされているI先生が「いや、私は静脈も原因になると思いますよ」と始まるのであるが、これが毎年起こるので、すでに風物詩というかコントなのである。
御大ほどの経験数はないが、それでも数人の患者さんでは、動脈とはかなり離れていて、三叉神経に接触して、圧迫しているのは静脈のみ、という所見のことがあり、これを移動させることで治癒を得ている。
なので、やはり「原因になる」でよいと思うのだが、毎年同じ話を蒸し返すところがいじらしい(?)
そもそも「静脈は三叉神経痛の原因とならない」ということを証明するために、「三叉神経痛のメカニズムは…」と議論を始めるところが既に筋が悪く、1例でもあれがば「原因となりうる」という結論にしかならない。
しかも、学会に参加している多くの脳外科医が「原因となる」と思っているようなので、独りよがりと思われても仕方ないのではないだろうか。
(この話が始まると、皆で「きたきた、今年も始まった」と目配せする。)
三叉神経痛のメカニズムに関しても、動脈が経年変化で偏位して三叉神経に食い込むというのは、もっともらしく、多分そうなのだろうけれど、あくまで仮説だ。
しかも、単一メカニズムである必要もないかもしれない。
「静脈は生まれつきそこの場所にある」という点に関しても、少なくとも太さに関しては成長とともに流量が増えて直径や、血流量が変わることはあるだろう。
また、動脈でもtrigemino-cerebellar arteryが、三叉神経の線維の間を走行している場合があり、これこそ生来、三叉神経に接しているわけであり、説明困難ということになる。
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つまらない重箱の隅をつつくような議論かもしれないが、かかっている医者が「静脈は三叉神経痛の原因にならない」説を信じきっていると、
「MRIで動脈が当たっていないので、手術しても良くなりません(適応ありません)。がまんして現行治療を続けましょう」
ということが起こりうる。
本当は手術で「完治」しうる患者さんに治療の選択肢が提示されず、ずっと抗てんかん薬を飲んでふらふらしたり、痛みが取れずに苦しむ羽目になりうるのだ。
なので、症状が典型的な三叉神経痛では、MRIで動脈が当たってなくても手術で治る場合があることはもっと知られて良いと思う。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
*三叉神経痛についてはこちら
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