中国でも他施設前向きに未破裂脳動脈瘤の研究、つまりUCAS Japanのような観察研究が開始されるとのこと。
J Transl Med. 2019 Oct 22;17(1):349. doi: 10.1186/s12967-019-2092-z.
Liu H1, Guo W1, Xiang S2, Hu P2, Sun F1, Gao J1, Zhang X1, Wang P1, Jing W1, Zhang L1, Yang X3, Duan C4, He M5, Zhang H6, Qu Y7.
さすがに社会主義で、人口当たりの脳外科の数が少ないとはいえ、「全ての未破裂脳動脈瘤を治療せずに経過を見る (=本当の自然歴を調べる)」ことは倫理的にできないようだ。
つまり、どのような基準かは明示されていないが、出血のリスクが高い動脈瘤は、クリッピングなり、血管内手術が行われることになるので、”自然歴”ではないことになる。
(今の中国でできないのであれば、今後も"自然歴”が分かることは、ない)
また何mm以上を観察対象にするということも明示されていないようなので、これも平均出血率に影響すると考えられる。
ただ、日本とは異なる治療適応で、多数のアジア人において、どれくらいの出血率になるのか、という点で結果は気になるので、4,5年後に結果が出るのを楽しみにしたい。
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「未破裂脳動脈瘤を見つけて、治療しよう!」というのは、もちろんくも膜下出血を防ぐためなのだが、今さらながらだが、ドックでこれを達成するのは、かなりスジが悪いのだと思う。
理由としては、
小さいものまで含めれば2~6%くらいの人に動脈瘤が見つかるが、大半は小型の動脈瘤なので、実際にくも膜下出血を起こしそうな動脈瘤を探すという点では効率が非常に悪い。
1%/年と仮定して、1件のくも膜下出血を防ぐのに(1年あたりで言えば)99%の人は無駄な治療を受けることになる。
実際には、脳ドックを受け、問題なしとされた翌年とか数ヶ月後にくも膜下出血を起こす方もいるので、未破裂脳動脈瘤を見つけて治療することによって防げるくも膜下出血は、ごく限られた一部と考えられる。
実際には脳ドックを受けるような健康意識の高い人ではなく、普通の健診もなかなか受けない方が出血を起こす方が、おそらくずっと多い。
なので、本来ならくも膜下出血を起こしそうな人にプッシュで通知し、脳ドックを受けさせるような仕組みが望ましい。
AIというか、ビッグデータが役立ちそうなのはここだと思う。
10年くらい前だったと思うが、妊娠している訳でもないのにベビー用品の割引券が送られてきて怒っていたら、実は娘が妊娠していた、というのが、購買履歴を用いたビッグデータによるマーケティングの例としてあげられていた。
今まで知られているくも膜下出血の患者因子は高血圧・喫煙・高齢・くも膜下出血の家族歴などであるが、その他にも歯周病や、食生活、睡眠時間などの生活スタイルも実際には影響するだろう。
中国ならここで、多分テンセントなどが持っている購買データ(タバコも含まれるはずだし、食生活も反映されるだろう)と、くも膜下出血を起こした患者のデータを照合して、一定以上のリスクを持つ集団にプッシュで通知して、MRIを受けてもらうことが可能になるのではないか。
つまり、動脈瘤を探すのではなく、くも膜下出血を起こしそうな集団を探して、そこにアクセスすることができれば、不要な検査・不要な経過観察MRIを防ぐことができるのではないだろうか。
おそらく健診を受ける方よりも高い確率で、リスクの高い動脈瘤を検出することが可能だろうし、そうでなくても生活習慣に介入する意味がありそうだ。
(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
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