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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

脳室腹腔シャント

更新日:2021年5月2日

水頭症という病気に対して、髄液が貯まって広がっている脳室と、お腹の中(腹腔)をチューブでつなげる、脳室腹腔シャントという手術がある。


水頭症は、くも膜下出血の患者さんの20%くらいに起こってくる病気であり、また特発性正常圧水頭症という高齢者の歩行障害、認知症、失禁の原因になっていることもあるが、脳外科では比較的よくある病気の一つだ。


頭側の創(きず)が4,5cm程度と小さく、骨に穴を1つ開けるだけなので、脳外科の中では、慢性硬膜下血腫の次に執刀するようなタイプの(初級?)手術である。


お腹の方は直径1.5mm程度のシリコンチューブが、確実に腹腔の中に入っていれば十分なので、慣れてくると、できるだけ創を小さくするなど、こだわれる部分もあう。

また脳外科がお腹の処置を行うのはこの手術だけなので、正直なところ今でも自分でやりたい。


ただ、誰が行っても、きちんとした手術をすれば結果に大きな差を生じにくい手術なので、いくつかのこだわりを遵守してくれれば、(手も口も出すが)若手に行ってもらうことが多い。


この手術で問題になりがちな合併症として、シャント感染、シャント不全(うまく髄液が流れない)が主なものであり、また稀な合併症として、気胸や鎖骨下動脈損傷が挙げられるが、これをどうやって防ぐかが大事だ。つまり、

  • 十分に消毒する。

  • ドレープを極力剥がさない(毛根をできるだけ術野に出さない)

  • 2人で行う場合は、お腹から始めて、硬膜切開を最後に行う。

  • 頭とお腹を別の人が担当する場合も、硬膜を切開するのは、チューブを通してから。

  • 腹腔管を通すパッサーは腹部側から耳介後部に向かって進める。

  • パッサーを押し込む手は、皮膚ギリギリを押し、トルクが逃げないようにする。

  • バーホールエコー下に、エコーを見ながら脳室管を進める。

  • 待ち時間に落下菌がチューブに付着しないようにガーゼで覆っておく

  • 腹腔管を腹腔に入れるまえに、必ず”自然滴下”を確認する。


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十分消毒するなんて当たり前なのだが、例えば、ちょっとぼうっとしている高齢の方の場合に、前日に入浴されていても、よく見ると垢がついていることもあるし、へそ周りのシワとか、十分キレイになっているか、きちんと確認する。

これは当然、術者の責任だ。


脳室を刺す操作も、古典的にはKocher's pointからnasionと外耳道を結んだ点を狙って刺すと教えられたし、今もそう教えられる。

しかし空間把握能力なんて個人差が大きいし、患者さんの頭蓋骨の形だって人それぞれ異なっている。なので、監督している立場からは、何が起こるか分からないこと、外から見えないことはできるだけ避けたい。


幸いバーホールタイプのエコーが市販されており、これを見ながら行えば精度が全く違うと考えている。

概ね若い脳外科医は、中心静脈穿刺もエコーガイドで行うのが当たり前という教育を受けているので抵抗がないようだ。


むしろ専門医以降のおじさんの方が、どういう自信なのか、ちょっとエコーを見て、あとは自分の感覚で穿刺しようとしたりするので、本当に厄介である。

もちろん、彼らも高い確率で脳室に当てられるのだろうが、ここで必要なのは100%狙ったところに達することだ。100%!


実際に、脳室管が不適切なところに入っていて、水頭症が改善しない、しきらない患者さんを一人でも経験すれば、ただ脳室に当たれば良いものではないことが分かるだろうが、経験にしか学べない愚者はここでは言及しない。


自然滴下も、バルブを押せば流れるではなくて、自然に髄液が滴下しなければ、途中のどこかに問題がある可能性が考えられるので、再度見直すべきだ。


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このように、脳室腹腔シャントでも考えて行くと、こだわる部分、順序というのができてくる。

若手の医師も執刀したら、1例1例脳内再生して「次はこうする方がいいんじゃないか」と考えるようにしましょう。


(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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