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執筆者の写真木村 俊運 @ 日本赤十字社医療センター

髄膜腫Q&A

更新日:11月25日

先日、おそらく髄膜腫*と思われる患者さんが受診され、箇条書きに気になる点をまとめて持っていらっしゃいました。


他の方も気になる内容だと思うので、Q&Aにしてみます。

(*髄膜腫と断定できないのは病理所見で確定できていないため)


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手術のリスクは高いですか?


髄膜腫の手術リスク(後遺症リスク)は、大きさと場所によるので、これは一般化しにくいです。


つまり、非言語優位半球(だいたい右大脳)の前頭部や頭頂部にできた、それほど大きくない髄膜腫であれば、リスクは一般的にあまり高くありません。


もちろん、高齢であったり、心肺機能に問題があれば話は変わってきますが、脳の問題だけに限ると、一般的には皮膚の感染症、術後のてんかん発作、術後出血(硬膜下血腫など)などが考えられます。

脳の表面と癒着が進んでいる場合には、静脈が傷ついたりすることで起こる脳内出血の危険性が一応考えられます。


一方、深部の頭蓋底髄膜腫であれば、何らかの脳神経が近くにあったり、癒着していることが多いため、これらの神経にダメージが加わることで、後遺症に繋がる危険性が出てきます。

脳神経でも 顔面神経 や 眼球を動かす神経といった、"運動に関わる"神経は切れてなければリハビリなどで改善してくることも多いですが、視神経・聴神経などの感覚の神経は戻らない可能性が高くなります。


また、そのような髄膜腫では、脳の動脈が癒着していたり巻き込まれていることがあります。そのような動脈を上手く処理できないと、大出血を起こしたり、動脈が詰まって脳梗塞を起こし、後遺症に繋がることがあります。


また、一般論として大きい病変は小さい病変より時間がかかり、後遺症リスクとは少し異なりますが、感染のリスクが高まります。


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手術のタイミングについて


既に圧迫による症状(麻痺、言語障害など)がある場合には、治療を勧める状態と考えられますが、それが一刻を争うか、というと、必ずしもそこまで急ぐ状態ではないことが多いです。

つまり、数週間から1ヶ月程度で、手術が無茶苦茶難しくなるか?というとそういうものではありません。

(髄膜腫だと思っていたら別のタイプの腫瘍で、短期間に大きくなる、という可能性はあります。)


しかし、例外もあります。

例えば腫瘍のために視神経や聴神経が圧迫されていて、週単位で見えづらくなっている、聞こえづらくなっている場合には、原則として早めの手術が必要です。

視神経も、ゆっくりとした圧迫には比較的強いですが、圧迫によってペラペラに薄くなってしまうと、かなり視力が落ちた状態からの最後の変化(=まったく見えなくなる)は数日単位で起こることがあります。


症状が無い場合、脳ドックは、原則としては症状の無い方が受けるものなので、そのガイドライン(「脳ドックガイドライン」)が参考になります。

多くの髄膜腫はゆっくり育つか、もしくは大きくならないことも多いので、特に治療するかどうか迷っているような場合には、(最初は3ヶ月とか)半年後などにMRIを撮ることにして経過を見るのが良いでしょう。


症状は無いけど、徐々に育ってきている場合は、やや悩ましくなります。

この場合は、大きさ、場所、増大のスピード(、その他)を考える必要があるでしょう。

つまり、10mmの腫瘍が1年で12mmになっているような場合には、「小さいので」経過観察を勧めることが多いように思いますが、若い方の頭蓋底髄膜腫ではっきり増大しているのであれば、治療を勧めることもあります。

つまり、「大きくなったら手術が非常に大変になるし、手術のせいで脳神経が傷んで後遺症を起こすリスクも高くなる可能性」を重視します。

(さすがに12mmでは勧めないことが多いとは思いますが)


大きさがある程度大きくても、脳が萎縮していて、腫瘍と脳の間に隙間があれば、特に急ぐ必要はありません。


髄膜腫はくも膜という膜の外側にできており、このくも膜が腫瘍によって引き延ばされ、破れて、脳を直接圧迫し始めると、脳浮腫が起こりやすくなります。

そのため、このくも膜が保たれているあいだに手術を行う方が、脳自体が傷みにくいと考えられます。

逆に、既にくも膜が破れて脳浮腫が起こっていると、きれいに摘出しても脳にMRIで分かる痕跡が残ってしまいます。

(だからといって必ずてんかんを起こすとか、脳のはたらきが低下するというものではありません。)


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手術のせいで、脳のはたらきが落ちないか?


髄膜腫のせいで、既に脳が強く圧迫されて、広範囲に脳浮腫を来たし、認知症のような症状を出しているような場合に、腫瘍を取りのぞくことで、元通りの生活に戻れた、ということはしばしば経験します。

つまり、髄外腫瘍(脳の外にできている腫瘍)で脳が圧迫されている場合には、その圧迫を取りのぞくことで、神経の働きが改善することも多いです。


無症状でも圧迫が強い場合には、同様に腫瘍を取りのぞくことで、その場所の神経の働きは改善するはずですが、実際には「切り取っても症状としては分からないような脳の部位」にできていると、IQが高くなったり、1分間に読める文字数が増えたりという効果は、原則期待出来ません。


むしろ、手術で体力を消耗するせいで、一時的には疲れやすくなり、集中力が下がるなどの影響で、「頭のはたらきが落ちている」と感じることがあるかもしれません。

ただし、これは体力が戻ってくることによって、徐々に改善する問題です。

(寝ていても良くはなりません。)


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目立つ部分に創が残らないか?


髄膜腫に限らず、脳外科の手術は、原則としては髪で隠れるように皮膚を切開し、なるだけ目立たないようにします。


ただし、一時的に脱毛が起こることはあり、とくに手術中に頭部が動かないように固定するピンの痕に、5百円玉サイズの禿げができることがあって、特に男性の方など髪が短い方では結構目立つことがあります。

アレルギーが関与しているとも言われますが、よく分かっていません。

生えてくるまでに1年以上かかることもあり、どういう人に起こるかも分かっていないところが難しい点です。


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輸血は必要ですか?


大きくない髄膜腫で輸血が必要になることは少ないですが、もともと貧血気味だと必要になることはあります。

髄膜腫のほとんどは予定で行う手術なので、ご自身の血液を貯めておいて、手術中、もしくは手術後に戻すという自己血輸血を行うこともあります。


ただし、出血性の髄膜腫(やMRIでの見た目が似ている孤発性線維性腫瘍)では自己血では間に合わない量の出血が起こることが多い印象があります。


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創が目立たないように鼻から内視鏡で取れないか?


頭蓋底腫瘍の一部は、鼻からアクセスして取れるものもあります。

確かに開頭の必要が無く、創も目立たないし、脳のダメージを最小化できることがある一方で、術後の鼻の中は、結構癒着が起こっています。


特に鼻中隔粘膜で髄液漏を防止するような場合には、鼻洗浄が必要だったり、結構手間がかかることもあります。


自分が尊敬する先生は経鼻内視鏡手術を「決して低侵襲だと思ってはやっていない」と仰っていて、いろいろなことをトータルで見て開頭手術より低侵襲な病変も確かにありますが、必ずしも、それが「一番低侵襲か」は、できている場所や大きさによってケースバイケースです。


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入院期間はどれくらいか?


これは自分が手術する場合ですが、原則としては手術の前日入院、手術後1週間くらいで抜糸して、その翌日退院くらい(9日間入院)ですが、病院の方針に依るところが大きいです。


また、静脈の発達具合を評価したい場合や、(自分の患者さんで必要と感じることは稀ですが)術前塞栓を行う場合には、脳血管撮影検査が必要になるため、手術前の入院期間が1~数日、長くなります。

また糖尿病や脳浮腫対策などでステロイドを内服している場合には、抜糸までの時間が長くなるため、入院期間が長くなることがあります。


起こって欲しくはありませんが、合併症が起こると入院期間が長くなったり、転院して集中的なリハビリテーションが必要になることもありえます。


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退院後の療養期間はどれくらい?


これについては仕事の内容にも依るし、雇用形態にも依るかもしれません。


ただ、創の状態としては感染や物理的・科学的な刺激に対して、元通りのバリア機能を発揮できないため、屋外での仕事が多かったり、ヘルメットを被るなど蒸れることが避けられないような場合は1ヶ月くらい自宅療養していただく方がよいでしょう。


一方で、術後の体力低下が問題となるような場合は、残業などは避ける方がいいかもしれないですが、寝ているだけでは体力も回復しないため、少しずつ外出する機会を増やし、外で歩く時間を増やしていく方がよいことが多いです。



髄膜腫, 脳神経外科, 脳外科手術, 神の手
認知症のような症状で施設に入れるかどうか、ということで見つかった嗅窩髄膜腫。術後は一人暮らしに復帰

(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)

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